実際にあった昭和最大の未解決事件をモチーフに過去の事件に翻弄される2人の男の姿を描き、第7回山田風太郎賞を受賞するなど高い評価を得た塩田武士のミステリー小説「罪の声」を、小栗旬と星野源の初共演で映画化。平成が終わろうとしている頃、新聞記者の阿久津英士は、昭和最大の未解決事件を追う特別企画班に選ばれ、30年以上前の事件の真相を求めて、残された証拠をもとに取材を重ねる日々を送っていた。その事件では犯行グループが脅迫テープに3人の子どもの声を使用しており、阿久津はそのことがどうしても気になっていた。一方、京都でテーラーを営む曽根俊也は、父の遺品の中にカセットテープを見つける。なんとなく気になりテープを再生してみると、幼いころの自分の声が聞こえてくる。そしてその声は、30年以上前に複数の企業を脅迫して日本中を震撼させた、昭和最大の未解決人で犯行グループが使用した脅迫テープの声と同じものだった。新聞記者の阿久津を小栗、もう1人の主人公となる曽根を星野が演じる。監督は「麒麟の翼
劇場版・新参者」「映画
ビリギャル」の土井裕泰、脚本はドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」「アンナチュラル」などで知られる野木亜紀子。
罪の声評論(20)
キツネ目のおとこもこの作品をどこかで観てるかもしれないと思うとまだこの事件は終わってないと思う。
新聞記者さんとテーラー屋さんの話しが中心なんだけれど、間違いを犯しそれを是正出来ないまま、他者にその傷を背負わせることになってしまうという人生の哀切に焦点が絞られている。
流転の人生に、幸あらんことを!
実話じゃなくてホッとしました。
■印象的なシーン
1.自分の幼き時の声が、30年前の恐喝事件で使用されていたと分かった時の、曽根俊也(星野源)の驚愕した表情。ネットで再現する声と自宅のラジカセで亡き父の保管箱から出てきたカセットテープの声を聴き比べる姿。
- そして、再後半、その声を録音した人物が誰であったかが判明するシーン。国家権力に対する怒りに駆られたとは言え・・。-
2.且つては社会部記者として奮闘していたが、ある日虚しさを感じ、今は文化部記者として日々を過ごす男、阿久津(小栗旬:今作の演技は、良かった・・と思う。虚しさを感じながら漠然と生きてきた姿から、徐々に”且つての情熱ある記者魂を持った自分の姿”を取り戻していく過程を、絶妙に演じている。)が、30年前の未解決事件に再び向き合って行く姿。そして、全く違うアプローチから”偶然”出会った俊也と阿久津。
3.俊也と阿久津が且つての未解決事件の真相に徐々に迫っていく過程の描き方が、とても良い。数々の関係者への粘りあるアプローチにより、徐々に言質を捕らえ、真実に迫っていく過程がスリリングであり、グイグイと物語に引き込まれていく・・。
4.俊也以外に、恐喝事件で声を使われていた二人の女の子と男の子のその後の苛烈な人生は観ていて、キツイ。愚かしき父親のために”声を勝手に使われ”、自身の人生が崩壊していく過程。
俊也はオーダーメイドテーラーとして父の跡を継ぎ、幸せな家庭を持つ一方、生島望と生島聡一郎姉弟と母親がたどった過酷な人生は、正に紙一重である。
父親がキチンとした人物であったか、なかったかの違いである。
ー家庭を持つ男は、”愛すべき人達をしっかりと守らなければいけない”という、至極当たり前のことを、改めて実感する。ー
5.阿久津が英国に、俊也の叔父である曽根達雄を探しに行く際に会った英国の大学教授の女性が最初は、阿久津の問い”30年前、親しくしていた中国人の現在の居所を知りませんか?”に対して、素っ気なく”中国人何て、知らないわ・・”と答える前半のシーンと、後半阿久津が再び”真の犯人を引きずり出す・・”と言い残して英国に飛び、彼の女性に再び”親しくしていた”日本人”の現在の居所を知りませんか?と、問うシーン。
それに対する、彼女の答え”彼は、”fossil"だから・・”
ー このシーンは、今作の胆の一つのシーンであろう。
阿久津の取材の仕方の変化(それは、彼自身の変化でもある)と、
英国の大学教授の女性が、且つての恋人である曽根達雄を、”fossil"だから・・と答える事で、達雄の”30年経っても変わらぬ思想”を否定していることが分かるからである・・。
そして、その考えは”今作品の根底”にもなっている。ー
6.阿久津が漸く、イギリスの田舎町で本屋を営む、曽根達雄と会うシーン。達雄の且つての理想、理念を捨てきれない姿と、そのために多くの人が悲劇に見舞われた矛盾を指摘する阿久津。絶句する達雄の姿・・。
ー 余りにも大きい、若き日の理想、理念を貫いた代償・・。-
7.職を失い、自死しようとしていた生島聡一郎(宇野祥平:このような役が絶妙に会う・・。失礼ながら頭髪の薄さ、やせ細った身体・・)の携帯電話に俊也から、電話が入るシーン。
一度は切り、命を絶とうとするが、俊也の言葉 ”僕も声を使われた・・”を聞いて。
ー 映像で見ると、リアルである・・。このシーンもこの作品の胆の一つであろう。生島聡一郎が世間に真実を話し、長き間生き別れていた母と再会出来たのだから・・。そして、記者会見に臨む聡一郎が着たスーツは・・。-
8.真実が明らかになった後、阿久津が俊也の店を訪ね、にこやかな表情で頼んだ事・・。嬉しそうに応える俊也の言葉・・。
ー 二人が徐々に再生していくだろう事を、暗示しているシーンである。-
<重厚で、見応え充分なヒューマン・ミステリー&サスペンス作品。
実際に有った、彼の有名な事件をモチーフに、土井裕泰監督が見事な手腕で、30年を超える人間ドラマを見応えある映像作品として仕立て上げた作品。>
■蛇足
・コロナ禍により、ハリウッド大作が次々に公開延期になる中で、邦画の良作(含むアニメーション映画)が続々と公開される僥倖感に浸る日々である・・。
母親から頼まれたものを探している時に見つけたって原作と違い偶然に見つけたテープと手帳。
曽根俊也自身が独自に真実を求め歩くので物語の進行が早くて観やすかった。
何故そこまで辿り着けたのか?協力者が居た原作と違うのだから少し説明あっても良かったけどね。
阿久津が文化部から引っ張られる等の面白いシーンはそのまま阿久津と曽根俊也が絡むシーンには厚みを持たせて引き込みやすく魅せる。
学生運動シーンも結構みせて反社会的思考の芽生え⁈みたいのを隅に置かせておく。
キャスティングも含めて素晴らしい出来だと思いました。
ただ子役がちょっと厳しかったかな?