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ヤクザと家族 The Family評論(20)
そして、自分は一体、何者かと問い続けているとしたら、それは、ヤクザも僕達も同じではないかと思った。
(以下ネタバレあります)
↓
彩が、「父はどんな人だったんですか」と、翼に問いかける。
翼は、ヤクザに父を殺されていた。
「話そうか」と答える翼。
このエンディングの場面、とても胸が熱くなる。
賢治は、翼の決意を察知して、行動に出たのだ。
賢治も、ヤクザに父を殺されていた。
賢治は、自ら中村の身代わりになった。
賢治は、自ら翼の意図を察し、行動に出たのだ。
賢治の短い人生は身代わりの人生だ。
ヤクザの人生なんて、こんなものだと、賢治は自分自身に言い聞かせていたのかもしれない。
救いは、ヤクザにではなく細野に送られたことかもしれない。
ヤクザの血で血を洗うようなことはもうないのだろう。
ヤクザの契りの物語かと思っていてが、見事に裏切られた。
自分は一体、何者かと問い続ける葛藤の物語だ。
描かれた反社会的勢力を取り巻く環境や、その変化は、この作品のメインテーマではないと思う。
一人のヤクザの決して長くはない人生を通して見た、家族の過去と現在をつなぐ、重厚な物語だ。
綾野さんが常々映画のPRで仰っていた、「ぜひ抱きしめてあげてください」という言葉の通り、主人公・山本賢治を抱きしめたくなるラストでした。どうしようもない結末に、涙が止まりません。悲しくも温かい、様々な形の愛があるのだと気付かされました。エンドロールで流れる主題歌、millennium paradeの「FAMILIA」でも涙でした。
「新聞記者」についてはフィクションとは言え、賛否両論を巻き起こしたため最優秀作品賞に関しては物議を醸しましたが、本作は完全なオリジナル作品なので純粋に見られると思います。
まず、本作を見て一番驚いたのは、藤井道人監督のふり幅の大きさでした。
「藤井道人監督の大型の商業映画」は、それこそ「新聞記者」が最初でしたが、その次に「宇宙でいちばんあかるい屋根」というファンタジーで良質な作品を手掛けました。続いて、再び毛色が大きく変わった本作の登場です。
ヤクザ映画というのは、暴力シーン等かなり違った技術が要求されますが、それをベテラン監督の如く的確に描き切っていました。これは、この分野を主戦場にしてきた監督からしてみたら驚異的な存在に映ることでしょう。これほどポテンシャルを秘めた監督だったのには正直驚きました。
さて、本作は時代の変化と共にヤクザという存在がどのようになっていったのかがよく分かるような興味深い内容となっていました。特に終盤での展開は切ないほどリアルで、こういう俯瞰的な視点のヤクザ映画が作られるようになったのは時代の変化を感じます。
主人公の綾野剛が1999 年の少年期の序盤から、ヤクザとして最前線で生きた2005年を経て、2019年の現代までの約20年間を自然に演じ切っています。さすがに20年間は厳しいか、と思いましたが、少年期とは言え成人前くらいなので違和感なく演じ切っていました。
本作は全体的に出来が良いので、大げさではなく役者陣全員が良く、中でも2019年から登場する磯村勇斗は存在感の強い役者に成長していて今後が楽しみな俳優になっていました。
タイトルの意味も含めて、深い秀作だと思います。
半グレ少年期からヤクザの最前線として生きた2000年代前半。時代がガラリと変遷した2010年代後半までの20年間を綾野剛が演じる。
義理人情を第一に考えて、まさしく家族である組のために身を粉にして働く。その姿はなんともかっこ良く、苦く、苦しい。誰かにとって生きやすい世界は、誰かにとって生きにくい世界なんだと心深くに思い知らされる映画だった。
俳優陣の演技は素晴らしいが、中でも綾野剛は別格の輝き。20年という時間の中での人間の変化を、若さ溢れる青年期から時代に取り残された壮年期までを見事に演じている。彼の演技の振り幅にはいつも驚かされる。これからも応援します。