デンマークの農村を舞台に、体の不自由な叔父と一緒に家畜の世話をして生きてきた女性に訪れる人生の転機を、時にユーモアを交えながら美しい映像で描いたヒューマンドラマ。幼い頃に両親を亡くし、体の不自由な叔父と2人で暮らす27歳の女性クリスは、家業である酪農の仕事を手伝いながら日々を穏やかに淡々と過ごしている。そんな彼女には、獣医になるという夢があった。ある時、教会で出会った青年マイクからデートに誘われたクリスは、訪れる変化に戸惑いながらも胸のときめきを隠せない。将来の夢と恋に悩むクリスに気付いた叔父は、姪の幸せを静かに後押しするが……。2019年・第32回東京国際映画祭コンペティション部門で最高賞にあたる東京グランプリを受賞した。
わたしの叔父さん評論(5)
主人公のクリスは農場を営む叔父と田舎で生活している。叔父は足が不自由であり半ばクリスは介護も担っている状況である。
なぜ叔父と暮らす事になったのかというとクリスが14歳の時に兄弟を失いそれを追う様に父親が自殺をし独り身になったところ叔父が引き取ってくれたそうだ。
その背景もおそらく作品が始まって30分くらい経ったくらいで叔父の知人の獣医がそのまた知人との会話で知る事となる。
この作品はクリスと叔父が必要以上に会話をしない為中々彼女らの情報が入ってこない。
ただしその描写がこの作品の最大の魅力でもある。
両者とも口数が少ないため、会話が一方通行であったり、時には問いかけに対して返事がない事も多々ある。
ただ次のシーンではその問いかけ通りの行動描写に移っており必要以上の言葉を発しなくても互いに理解し合いそして尊重しあっているのな伝わる。
またクリスの生活は毎日が決められた時間に、同じような行動を淡々と繰り返す日々である。
表情が変わらない為それらも序盤には不満があるようにも勝手に思ってしまったが、ストーリーが進むにつれて彼女自身がその生活を望み、そしてちょっとした変化に不満を覚えたりストレスを感じたりする姿が見受けられる。
もちろん今の生活を送る事で彼女自身他にもやりたい事を犠牲にしているのも見受けられたが、それをひっくるめて彼女は今の生活を望み、そして叔父を愛しているのが伝わる。
叔父も叔父でクリスに事細かくあれこれ言われ行動を制限され、時にはストレスに感じている所もあったがそんな口うるさいクリスの姿もひっくるめてクリスを愛し信頼しているのが伝わる。
この2人は言葉数は非常に少ないが互いに愛し信頼しあってるのがストーリーが進むに連れて感じ取れるのがこの作品の美しさでありとても魅了された。
この"静"なる空間を個人的にもとても好きな空間であり、その空間を大切に美しく描いてくれるこの作品は自然と好きな作品となってしまった。
この"静"なる空間は僕だけではなく日本人が好む空間ではないか。であれば自然と日本人ウケの良い作品になるのではないかと感じた。
クリスがここまで叔父を愛し、自らが犠牲になっても叔母に尽くすのは父親を失った時に、そして引き取られた時に余程親切にしてもらい嬉しい気持ちがあったからなのかな想像しながら観賞しそして作品が終わる。
エンドロールも音がなく静かに終わりとても温かい気持ちで劇場を後にすることができた。
改めて振り返ってもこの2人の関係性は素敵であり、とても憧れる関係である。ただこの関係性は余程の信頼関係がないと成り立たない関係でもある。だからこそ美しくそして魅力ある描写であった事が改めて感じる。
この作品を持って僕がよく利用する恵比寿ガーデンシネマの新作公開は最後となり、2月末にて一旦休館となる。再館の時期は現時点では未定であり、好きな劇場の一つのため寂しく思うが最後にこの様な素敵な作品を観ることができとても感謝の気持ちでいっぱいだ。
このタイトルが示すとおり、名コメディ映画の如く、味わいある笑いを含んだ作品だった。
介護をテーマ?農業問題?恋愛もの?この映画に対してあらゆるレッテルを貼ろうと必死に思いを巡らしたけれど、その思いをすべて優しく包み込みながら、ポイッと捨てられてしまうような面白さ、内容の深さが想像以上で、印象的なエンディングを迎えてなおかつ、頭の中ではその続きを勝手に夢想してしまった。
映像も素晴らしくて、遠景の自然美にはことごとく魅せられたら。
主演の彼女と登場する叔父さんは実際の叔父と姪だという。どうりであの反発しながらも互いを信頼している自然な雰囲気を作り出せているはずだ。あの言い争いや優しさは、恐らく実際の生活において、どこかしらで目にする光景なのではなかろうか。それぐらいナチュラルで、心を揺さぶる。
こんな素晴らしい作品のワールドプレミアを見ることが出来て、大変光栄だ。これはデンマークの一部の問題とかテーマであるかのようで、非常にワールドワイドな事柄だと思うので、世界中で受け入れられていくことを切に願うばかり。
全編ほぼセリフも音楽もなく、淡々とわたしと叔父さんの日常が繰り返されていく。ドキュメンタリーのよう。普通だったら他人からしたら退屈な映像のはずが、何気ないやりとりからふたりの関係がにじみ出てきて身近で微笑ましくなる。そうだ、本来人間同士が織りなすリアルこそがドラマなのだ。事実は小説よりも奇なり。
それもそのはず。ふたりは実の叔父と姪らしい。そしてその叔父さんが実際に生活している農場で撮影したようで、飾らない現実がそこにはある。
現実と理想、身寄りへの愛情と自由への羨望との間のジレンマを佇まいだけで見事に描いている。
良くも悪くも東京国際映画祭のグランプリらしい作品で、チャレンジングなアプローチで称賛に値するものだとは思う。ただ…こういう系は賛否両論か評価が高くなりやすいが、こういう映画も必要だと思いつつ、素直にやっぱり自分はもっと分かりやすくて純粋に楽しめるエンターテインメントを求めてしまう。
でもどうしてもいつもハリウッドか邦画に落ち着きやすい映画事情に、幅広い可能性という一石を投じてくれる貴重な機会として毎年この映画祭を楽しみにしている。