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アイヒマン・ショー 歴史を映した男たち評論(20)
優れたドキュメンタリーを撮る腕をかわれ、雇われた映画監督フルビッツ。彼は「人間は誰でもモンスターになりうる」という信念のもと、カメラには執拗にアイヒマンを追うよう指示する。
彼の表情に人間性が垣間見られれば、人は置かれた状況によって平然と残虐なことができるようになってしまうことを、証明できるからだ。
イスラエル人のテレビスタッフは、「絶対に私たちは彼のようにはならない」といい、アイヒマンは「モンスター」のままでいいと思っている。そうでなければ、自分達が受けた仕打ちに納得ができないから。
結局はこの意見の平行線は決着を見ることはないが、観るものに疑問を突き付ける。
私はもちろん、ユダヤ人であろうと何人であろうと、人間というものは置かれた立場によって、国という曖昧模糊とした存在に責任転嫁をし、残虐な行為をしてしまう生き物だと思う。
何千年も国家を持たなかったユダヤ人が、何千年も前の神との契約を持ち出し、住んだこともない土地からアラブ人を追い出して壁を作っている。
そのことを突きつけても、目を塞ぎ耳を塞ぎ、平然としているではないか。
勿論、この生放送によって、それまで公には知られていなかったホロコーストが全世界に露呈したことは、ユダヤ人にとって一定の勝利であると思うし、世界中が知るべきだったと思う。
ただ、人間性の考察においてフルビッツの持論はもっともだし、見たことも住んだこともないイスラエルを何故「故郷」と思えるのか?という素朴な疑問を抱くことにも共感できる。
生存者の悲惨な体験を突きつけられても平然としていたアイヒマン。
だが、責任を真っ向から突きつけられ顔を歪めたとき、ナチの親衛隊は、ただの矮小な男になった。
フルビッツの努力は報われた。それは映画監督としての個人的な勝利にのみならず、戦争と大義名分がいかに人を尊大にするかを証明した勝利でもあったと思う。
実際の裁判映像を多用して、話を進めたのは面白い点ではあり、又、イスラエル建国という大きな矛盾を孕む事象とこの裁判がまともな裁判になりえるのかという点にも焦点を当てたのも、重要な示唆を富む。しかし、この映画は先のナチの犯罪同様、論点は与えるが解釈の掘り下げには積極的ではない。後は自分で調べ、それぞれで解釈して欲しいと言っているように思える。これがこの映画の方針なんだろう。
撮影監督であるレオ・ホロヴィッツ(ラパリア)は調整室でカメラマンに常に指示を与える。「アイヒマンを撮れ!」と。収容所の悲惨な真実の証言を聞いても動じない、ふてぶてしい態度をとるアイヒマン。罪を認めるかどうかという焦点に釘付けになっているプロデューサー・ミルトン(フリーマン)やテレビクルーたち。実際に強制労働をさせられていた1人のカメラマンが気分が悪いと交替させられたり、証人自身が公判中に倒れたり、ホロコーストの悲惨な状況を物語っている。
テレビドキュメンタリーを撮る模様を映し出す映画なんてのも珍しいが、ホロコーストの悲劇の実際の映像をアイヒマンに見せたりするシーンが印象的。本物の映像はやはり違う。『ヒトラー最後の代理人』に登場したルドルフ・F・ヘスの名前も挙げられていた。