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ガンパウダー・ミルクシェイク評論(7)
ストーリーや構成はシンプル。分かりやすい展開で(バイオレンス系が苦手でなければ)誰でも観やすく、感情移入するとかではなくとにかく女たちの生き様とアクションに集中するのみ。
なんでそうなるとか、なんでそうしないとか、主役たち強すぎとかツッコミたくなるが、腕が使えないバトルやあんなに武器があるのに使わないなど敢えての制約で見せ場を作り出していく。
なによりCG抜きの生身のアクションへのこだわりと撮影に唸る。クライマックスのスローモーションシーンは最高にかっこいい。
(未鑑賞だが)前作をクエンティン・タランティーノが絶賛したのも納得の作風だ。
ビビットカラーで鮮やかに輝く映像も特徴的。ネオンと相まって目に焼き付く。
テーマやメッセージは度外視で良いが、女性主役のフェミニズムや、殺し屋と無垢な少女が心を通わせていくレオン的な要素や、幼少期の親との関係が人格を作り次の代に受け継がれていく絆が描かれている。
「マシュマロ」とカタカナで書かれたTシャツを着ていて日本が好きなのかなとちょっと嬉しかった。
女性たちがそれぞれ特徴的な武器を持って戦うスケバン刑事にインスパイアはされてないかな…
キノフィルムズでの試写にて。
この「女たちの連帯と共闘」を描いたアクション映画は、フェミニズム映画としても鑑賞することが出来る。
「会社(ファーム)と呼ばれる男たちがいる。ずっと昔から商売してるんだけど、後始末が必要になると、私を送り込む。」このサムのセリフから読み取れることはふたつ。ひとつは男たちは組織を形成していること(いつも大勢でいて固い絆で結ばれてるといった感じで、いかにもホモソーシャル的、、)、もうひとつは、後始末が必要なときにサムは派遣される、つまり、極めて危ない状況のときにサムは仕事をしなければいけないということ(サムが強くて人殺しとして優秀ということもあるけれど、あんなに男たちはたくさんいるのに危ない仕事はサムがひとりで引き受けている)。この映画は、男たちがホモソーシャル的共同体を形成し、女たちを排除するという構図になっている。
男たちは、総力戦と銘打ち、数で勝負してくる。そこに知性はないように描かれていたし、彼らは忠誠心で動いているから、ボスに指令されたら、それに従って思考停止して戦うだけだ。
一方、女たちは、知性を持って戦い、思考停止しない。そもそも、サムが追われる立場になったのは、何の罪もない8歳の女の子の命を助けるために、組織への忠誠に背いたからだ。
図書館の本は、知性や知識の象徴であり、女たちはそれらを冠した名の武器で戦う。ジェーン・オースティン、ヴァージニア・ウルフなど文学作品から、自己啓発本や歴史の本まで、図書館にはあらゆる知がある。つまり、女性たちは、無知ではなく、知識を持ったうえで戦っているということを暗示する。
これを踏まえた上で、サムたち女性VS組織の男たちの戦いを解釈すると、女たちの戦う目的は、ただむかつく男たちを殺すことではない、ということである。フェミニズムが目指すのは、男たちを倒すことではなく、男女の格差を改善し、よりよく”共に”生きることだ。倒したいのは「男たちそのもの」ではなく、男たちをそうしてしまう「社会のあらゆる仕組みや制度」や「慣習」や「権力の在り方」である。最後にネイサンを脅しにいくも、殺さずに生かしておくのは、「共生」への問いかけであろう。女たちが車で再出発していく場面での、ラジオから流れる男の音声は、それに対する男たちからの「応答」であるかもしれない。
メモ
・ボスの言葉たち「私はフェミニストであるが」「娘たちを愛しているが、まったく理解できない」「ピンクやユニコーン」
→自らをフェミニストと言っているが、実態は真逆。女の子はピンクやユニコーンが好きなはずだ、という決めつけ。
・サムと母親はそれぞれ過去にしくじったことと向き合い反省している。サムは、エミリーに父を殺してしまったことを謝罪し、ボスに息子を殺したことも謝罪する。
→意識して、男たちと女たちが描き分けられているように思う。反省する女、謝罪を口にできる女、そうではない男たち。
・ダイナーでの戦闘シーンのスローモーションは、衣装やセットのかわいさ×殺しというミスマッチな感じも相まって、ウェスアンダーソン的要素も感じた。
・図書館は、隠し扉の先に広大な地下があったり、森のような部屋があったりして、いかにも文字によって広がるさらなる世界として表現されているところが個人的にすき。
・ポップなダイナー、ネオン、かわいくておいしそうなミルクシェイク、荘厳な図書館たち、壮絶なアクション、血まみれ、生首、麻酔の副作用が笑いが止まらなくなるというシュールなユーモアなど、さまざまなものがまさに「シェイク」されて混ざりあっているような映画。アクション映画であり、フェミニズム映画であり、母と子をテーマにした映画でもある。