TAMA NEW WAVEでグランプリほか3冠に輝いた「ウルフなシッシー」や、松本穂香を主演に迎えたYouTubeドラマ「アストラル・アブノーマル鈴木さん」などの作品を手がけてきた大野大輔監督が、平成から令和に変わりゆく時代を背景に、持たざる者たちの苦しい愛と青春を描いた物語。ロックデュオ「チカチーロンズ」でボーカルを務める信太は、ある日の対バンライブでギターの直也にドタキャンされ、苦境に陥る。そんな信太に、シンガーソングライターの月見ゆべしが手を差し伸べる。売れない、金もない、時間もない、同じ境遇の三十路の2人は共鳴し、やがて信太はゆべしのマネージャーとなり、恋人になる。しかし、ゆべしをメジャーに進出させたい信太と、自分のスタイルをかたくなに曲げないゆべしの溝は日に日に深まっていき……。ゆべし役を「過激派オペラ」などの映画やドラマ、舞台と幅広く活躍する早織が演じ、吹き替えなしでギターの演奏シーンにも挑戦。信太役は大野監督が自ら演じた。
辻占恋慕評論(1)
細々とライブ活動を続ける三十路のミュージシャン、信太(大野大輔監督が自ら演じている)と月見ゆべし(早織)。対バンになった際に信太の伴奏をゆべしが買って出た縁で、信太は自身の夢をゆべしに託し、マネージャーとして彼女を売り出そうとするが…。
表現の世界でプロを目指すも挫折した人なら、2人の苦しさが痛いくらいに伝わるはず。数えきれないほどの“成就しなかった想い”への鎮魂歌のようでもある。小島藤子主演・桐生コウジ監督作「馬の骨」に近い要素も認められる。
早織によるギターの演奏シーンは吹替なしだそうで、猛特訓したのだろう。ただ、長年弾き語りを続けているという設定の割には、ギターのローポジションでのコードチェンジのたびに手元を見すぎ。基本的なコードはフレットに目をやらずに移行できていたら説得力が増していたのに、惜しい。