イタリアで暮らす高校生ジャコモ・マッツァリオールがダウン症の弟ジョーを主人公に据えて一緒に撮影した5分間のYouTube動画「ザ・シンプル・インタビュー」から生まれたベストセラー小説を映画化。初めての弟の誕生を喜ぶ5歳の少年ジャックは、両親から弟ジョーは「特別」な子だと聞かされる。ジョーがスーパーヒーローだと信じるジャックだったが、やがて「特別」の意味を知り、思春期になると弟の存在を隠すように。ある日、好きな子を前についた嘘が、家族や友だち、さらには町全体をも巻き込んで大騒動へと発展してしまう。「僕らをつなぐもの」のフランチェスコ・ゲギが主人公ジャック、実際にダウン症でもあるロレンツォ・シストが弟ジョーを演じ、「盗まれたカラヴァッジョ」のアレッサンドロ・ガスマン、「パラレル・マザーズ」のロッシ・デ・パルマが共演。本作が初長編となるステファノ・チパーニが監督を務め、「人生、ここにあり!」のファビオ・ボニファッチが脚色を手がけた。
弟は僕のヒーロー評論(6)
高校デビューを図ろうとするジャックが抱えている、弟の障害や、障害を持つ家族がいる環境を他人から過度に特別視されることへの居心地の悪さと、思春期特有の自意識が相俟って起こる騒動がメインのストーリー。
デリケートな題材であるが、過度な感傷や悲壮感を出さず、また過剰に感動を煽らないユーモラスな作風が好印象だった。
幼少期の、末っ子だったジャックが待望の弟であるジョーに向ける期待と愛情が微笑ましく、二人の姉達の落ち着いた佇まいとのギャップもいい味を出していた。
産まれた子がダウン症だと知った両親の葛藤や、手探りで養育を進める苦労を率直に描いている点も良かった。
ジャックは単に弟を遠ざけたいわけではなく、彼を愛するがゆえの本音があることが終盤に明確になるのだが、それを知った時の家族の対応も良かった。ジャックの物語としてだけではなく、家族の物語として心に留めたい一本だった。
多様化の過渡期にある現代では声をかける側・かけられる側の事情も心境も様々で、知らないうちにマイクロアグレッションを与え・与えられていてもおかしくない。傷を自覚し傷と向き合う機会をもつ大切さ、自分の心情を言語化する力の重要性を感じた作品でもあった。