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17歳のウィーン フロイト教授人生のレッスン評論(10)
My mother always said I had two left hands.
この映画の舞台となったウィーン。ウィーンと言えばチターの音色が特徴的な映画「第三の男」。「第三の男」と言えばキャロル・リード監督とオーソン・ウエルズという怪優であり、監督や脚本家の名も持っている人。ラスト女性が横にいる男性に一瞥もせずに通り過ぎる名シーンを思い出す。
ところで、この映画でのフロイトの人物像がすごく気の利いた優しいおじいさんに描かれているけど実際は?がついてまわる。彼は、度重なる身内の不幸によることや、その中でも特に孫が5才で夭折したことに直面してからは、彼の心の中での笑顔というものが喪失したと言ってもよいぐらいの状態になったと伝え聞く。しかもゲシュタポによる数回にのぼる家宅捜査やその時に娘の拉致にもあい、その上、彼自身の健康状態から鑑みるといくら精神分析の開拓者とはいえ、そんなこと出来たら超人と言える。ま~ぁ、そのような人だけれども...
So that's what it is.
Yes. Life is what it is.
What sort of life?
最初の方は、人の生き死にや17才の感情豊かな青年の恋愛模様を取り上げている映画と思っていたものが、途中からシオニストのユダヤ人の迫害だけをメインに置いたような映画のシナリオとなり、”またか”という印象が色濃くなる。
ユダヤ人が何故海外では嫌われる理由を語らず、いつもの通り棚上げにされ、ありふれたシナリオになっている。選民主義による他民族との婚姻の禁止。ベニスの商人の職業... キリスト教の7つの大罪のすべてを含む職業である”高利貸し” に多くのユダヤ人が就いていることにもよる。それはユダヤ人批判に対して取るに足らない事なのか? 借りたほうがわるいのか?ソビエトや東欧でもゲットーは存在し、ヘイトが横行した時代... でも人命は最優先であるのは当たり前で時を選ばない不変で普遍なもの。
ブルーノ・ガンツという役者さんが、どのような映画でも潔さを前面に出し、この映画でもその片鱗がうかがえる映画になっている。
スクリーンに生きている。彼の存在感がこの映画を生きたものにしている。
フランツの夢のシーン、自殺するコミュニスト、ナチスの旗がオットーの片足が短くなったズボンに替えられている所、重苦しさと幻想が入り混じり、タバコのような苦さを感じた。
少年が働くキオスク(煙草屋)は、大人になるためのツールが詰まった、ある意味“大人のおもちゃ箱”。戦乱に突入していく情勢ゆえ、否が応でも大人にならざるを得ない。それでも少年は、その現実を受け止めていく。
少年が妄想の中で好きな女子の前でカッコよく振舞ったり、憎々しい相手に強くなったりするのは、同じ男としてよく分かる。ただ、その妄想インサートが若干しつこく感じる点は否めず。
ヒトラーやナチ党員を何度か演じてきたブルーノ・ガンツが、こちらではユダヤ人のフロイト役というキャスティングが効いている。彼の最後の名演に合掌。
フロイトとユング、発達障害へのアプローチなんかをざっくり知ってると、あの湖の中へ少し入り込めるのかもしれませんね。この映画の評価の難しい所はソコで、僕は主人公を軽度の発達障害であると認識してからのウィーンなので「なるほど」となるのに対して、17才の多感な田舎の少年が都会に出て成長する物語と捉えると「むむむ?」が増える気もしたりして。
正解がどうという事ではなく、見えてるものをどう捉えたか?が大事になる、そう考えると極めて興味深い作品ですよね。そこに静かに絡んでくるドイツのオーストリア侵攻。ナチスの赤い旗が無機質に禍々しくはためく姿は、怖くもあり美しくもありました。
にしても原題は「キオスク」。邦題との乖離は、甚だしいな。