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なごり雪 あるいは、五十歳の悲歌評論(7)
男は栄進し、女はきれいになる。
知らない人であれば、きれいとは思わないかもしれない。
でも、知っている人だと──都会へ出て、洗練に浴して、変わった=きれいになったと、すごく感じる。
これは、卑下のような気分でもある。
臼杵と東京を行き来する祐作が、そのたび駅で雪子と別れを交わす。
そのときの雪子の発言がなごり雪の歌詞「春が来てきみはきれいになった、去年よりずっときれいになった」に重なる。
ただじっさいには、雪子はこう言う。
「~わたしあなたに約束するわ、わたし今はだめだけど、来年の春までに、きっときれいになる。うんときれいになってあなたを驚かせてあげるわ。だから、帰ってきて。こんどこの駅のホームで会うとき、あなたは言うわ。きっとこう言うわ。春が来てきみはきれいになった。って。去年よりずっときれいになった。ってね。」
東京へ出たのは祐作で、臼杵に残るのは雪子である。
雪子にとって、祐作は、どんどん離れていく、都会人である。
その位相があるかぎり、雪子はさいしょからかなわない恋を望んでいる──と言える。ひたすら純情に、祐作に思い焦がれている。
が、じぶんは田舎でしおれていくだけだ。およそ彼女自身「きれい」にはなれないと、うすうす自覚していたに違いないのである。
自覚していながら、いわば壮語のように「きれいになる」と約束する彼女の気持ちを思うとき、不憫でやるせない。
駅で別れる場面が数回あり、その都度、祐作は遠くへ離れていく。
とてもやるせない。
とうてい歌から翻案されたドラマとは思えない厚みがあった。
あえて連想すると「距離」が新海誠の諸作品思わせる。きみに読む物語のようでもある。多少飛躍するとブロークバックマウンテンのようでもありペパーミントキャンディのようでもある。新しくないけれど、古くない。そして古くならない。
大林宣彦監督のほかの作品同様、役者たちに演劇風の演技を課している。雪子のそれが、彼女の不器用と薄幸にしっくりと合っていた。記憶に残るヒロインを演じた須藤温子だったがその後鳴かず飛ばずで、ついぞ聞かない。
日本語に慟哭という言葉がある。
その泣き方で泣く人を見たことがない。
この映画のラストシーンのベンガルを除いて。
やるせない。悲しい。
Underratedもしくは認知度が低すぎる名画。
ここから理由へ続く00年代初頭は大林監督の絶頂期だったと思う。
映画は作り物めくほどその奥の感情が溢れるとの毎度の講釈は賛同するが、そうは撮れていない気がする。
棒読み書割り丸出しは良しとしても、物語がベタ過ぎ、台詞で説明し過ぎ、ではないか。
未見作、ゆっくり見る。