オーストラリアの原住民の間には男子が十六歳になると、着のみ着のままの姿で未開の地に送り込まれ、そこで一年間独力で暮らしていかなければならないという風習がある。その風習は“ウォーカバウト”(原題)と呼ばれている。未開の地に迷い込んだ白人姉弟と、ウォーカバウトを修業中の原住民の少年の心暖まる交流を描く。製作はサイ・リトビノフ、ジェームズ・ヴァンス・マーシャルの小説「ウォーカバウト」をエドワード・ボンドが脚色。監督・撮影はニコラス・ローグ、音楽はジョン・バリー、編集はアントニー・ギブス、アラン・パティロが各々担当。出演はジェニー・アガター、リュシアン・ジョン、デイヴィッド・ガルピリル、ジョン・マイロン、ピーター・カーバー、ジョン・イリングスワースなど。
美しき冒険旅行評論(2)
父親と少女とその弟の3人で砂漠にドライブに来るも、父親は突然2人の子供めがけてライフルを発砲し、ガソリンで車に火を点けて自殺。少女と弟は、広大な砂漠の大地に取り残され、あてどなくさまよい歩くことに。ある日、少女と弟は一人のアボリジニの青年と出くわす。その青年は、砂漠の中を一人で生き抜く、成人になるための儀式「WALKABOUT 」の途中だった。しなやかな動きで動物たちを捕らえ、殺し、肉を割き、食料にしていくアボリジニ青年のたくましい姿に、文明人である少女はしばし見とれる。だがある日、空き家を見つけて3人の仮の住まいとした矢先、アボリジニ青年が突然、少女の前で求愛のダンスを披露する。カッと目を見開いて少女を見据え、真っ黒な体にスケルトンの模様をペイントして、少女に愛をアピールし続ける青年。夜になってもずっと…。バックに流れるディジュリドゥの不気味なサウンドも相まって、釘付けになるシークエンスだ。そして翌日…。
欧米人姉弟とアボリジニ青年の、それぞれのWALKABOUT。寡黙な作品ではあるが、この作品が水際立っているのは、自然と文明との対比に留まらず、異文化コミュニケーションの難しさや、生きとし生けるものの命を頂くということ、自立すること、そして何よりも、たくましく自然を生きる猛者も、我々と同じように恋に落ち、繊細な感情に打ちひしがれるのだということを、安直な言葉や説明なしに、映像と音のみで実に雄弁に物語っている点である。ジェニー・アガター扮する少女が、渓谷で生まれたままの姿で泳ぐシーンは、残酷なサバイバルの旅の中で、一服のオアシスとしては奇跡的に美しく、心洗われる瞬間だ。
なお、この作品はかなり前に一度観たきりで、それぞれのシーンが強烈に心に焼き付いたものの、再び観たいと思いつつ、その機会を逸していた。そんな矢先、日頃信頼し、フォローさせていただいている方がオールタイム・ベストの一本として大切にしていることを知ったのをきっかけに、本当に久々のDVD観賞となった。この作品との再会の機会を与えてくれたその方に、この場を借りて御礼申し上げます。
あっという間に終わってしまう
そして何か分からない感動のようなものが残る
良い映画に出会えた幸せの瞬間だ
奇跡のような映画だと心から思う
繰り返し鳴り写るラジオは何の記号だろう?
チューニングがずれた時、我々は心中しようとした父のようになる文明社会そのものの象徴なのだろう
ラストシーンの抱き合って頬にキスを交わす男女は10年後の姉弟の姿
そこにオーバーラップされる、美しき冒険旅行の記憶
二人の心の深奥に刻み込まれている様が美しく表現されている
その記憶は姉弟、そしてアポリジニの彼の三人ともが裸で水浴びして泳いだ記憶だ
そこに青年になった弟のナレーションが被さって終る
その裸での水浴びのシーンに本作のテーマが凝縮されている
このシーンを観るために、その美しさを理解出来るようになるために、それまでの100分は存在していた