第二次大戦下のフランスで、孤独な少年と未亡人の恋愛感情を綴るドラマ。監督・脚本は「溺れゆく女」のアンドレ・テシネ。製作は「太陽と月に背いて」のジャン=ピエール・ラムゼイ・レヴィ。脚本は「デュラス
愛の最終章」のジル・トーラン。原作はジル・ペローの小説『灰色の目の少年』。撮影は「彼女たちの時間」のアニエス・ゴダール。音楽は「マドモアゼル」のフィリップ・サルド。衣裳は「トスカ」のクリスティアン・ガスク。出演は「8人の女たち」のエマニュエル・ベアール、「ジェヴォーダンの獣」のギャスパー・ウリエルほか。
かげろう(2003)評論(5)
戦時中、フランスの田舎を避難していく母子の数日の物語。
秀作です。
フランス映画は台詞がしみます。言葉に含蓄があります。そして度々返事をしない母の無言がまた、女として母として窮地に立たされている彼女の呆然とした心情をとてもよく表しています。
息子フィリップ。
父の戦死を子供ながらに受け止めて母親を支えようとする息子フィリップの健気さに、胸が締め付けられるんですよ。
僕はいつしか「戦死した父親目線」でこのフィリップを見ていたかもしれません、フィリップをねぎらい抱きしめてやりたい思いで涙がこぼれました。
大人の男のように母親を支え、母親を諭し、潜り込んだ空き家の手紙を盗み読みする母をたしなめるこの息子の言葉のくだりと言ったら!
でもまだ隠れて泣いているんだし、お母さんの胸にもたれかかりたい子供なんですよね。
そして、母子を助けたイヴァン(ギャスバー・ウリエル)の若いこと。無鉄砲な若者の落ち着きのない動作の演じ方は天才と思います。
育ちが悪くて家庭生活も知らないこの粗野なイヴァンに座って食事をすることや、文字の書き方や、そして矯正施設での男の体しか知らなかったイヴァンに・・
教師であったオーディールに「器用だ」「賢い」と生まれて初めて褒められたのであろうイヴァンのステップと背中に皆さん気付きましたか?イヴァンもね、本当はお母さんをまだまだ必要としていた17才の子供だったのですよ。
暗転の最後はつらい。
“かげろう”の日々は過ぎ去る。
その青年イヴァンの死を伏せて
我にかえって「娘カティはどこ」と聞く母親オーディール。
“女”である自分を保留し、“妻”であった自分を諦め、なんとかして残された子供たちを守らなければならない我に戻った“未亡人”の母親が、たった独りそこに残されて映画が終わります。
「ひまわり」とか「禁じられた遊び」とか、そして「この世界の片隅で」とか、
地味で目立たないけれど庶民の生活を追い詰めていった戦争の罪と悲しみの姿ですね、これ。
一生忘れられない作品となりました、
kossy さんオススメありがとうございました。
イヴァンは、ジャン・デルマスだったんですね。
また、相手役の ギャスパー・ウリエルも引けを取らないほどに素晴らしい演技です。未熟で、激しさと繊細さを持つアンバランスな若者の姿が、観る人の胸が痛々しくなるほど。
原題「LES EGARES 」は“道を踏み外した人”とか“迷い人”という意味だそうで、この邦題は巧いと思いました。偶然の訪問者と戦争の終結と共に、この切り取られた楽園のような生活は終わりを迎えます。とても深い余韻を残す作品です。
公開当時――家でTVタロウ(現在は廃刊)という雑誌を熟読してた頃――から気になってた作品。
いやー、よかったです。夕方観た「耳に残るは君の歌声」とジャンルも一緒なら、長さまでほとんど一緒。でも、残り方が全然違う。
子供らしい末娘と、利発な長男。野生児で危ういけれど、早熟な青年イヴァン。知的で気丈なオディール。南仏出身で、落ち延びてきた兵士。
誰も彼も、キャラクター造形がしっかりしてる。原作がいいのかな。
エマニュエル・ベアール、いいですね。美貌と諦念、徒労と色香。ディズニープリンセスをそのまま実写化したみたいな顔してますよね。ギャスパー・ウリエル君。上手いですね。 この二人を筆頭に、束の間の「疑似家族」みたいな様相を呈するのが、なんだか少しわくわくするしドキドキするし、でも、人の世の儚さ。それも、戦時中。本当に、束の間、、
南仏の兵士に対して全くウェルカムでない長男が、母に請われてオペラを歌うシーン。ドイツ語でいい? 困ったな、まぁ仕方ない。 みたいなやり取りがいいですね。敵国の歌だもんね。そういう、ディテールもいい。イヴァンは兵士がオディールを犯すつもりだと思い込んで、一時は奇襲も考えるけど、郷里に家族がいる兵士もまた、イヴァンと同じように、オディールの洗った皿を拭き、身の上話をして、束の間の「疑似夫」のようになる――。
数百人のエキストラが銃弾の雨に倒れ、血の海が画面一面に広がる――、という演出でなくとも、戦争を描くことはできる。この映画に、戦友を喪って泣き崩れる兵士のヒロイズムのようなものは存在しない。かわりに、娘の隣に腰掛け、途方に暮れるベアールの姿がある。その後味は決して軽くないが、だからこそ、何よりも戦争の本質を突いた描き方になっている。
唐突に「妻にしたい」と言うイヴァン。理性で感情を押さえ、文盲の彼に文字を教えるオディール。そのまま4人で生活を過ごし、幸せな一時を過ごせそうな予感がした途端に、フランス軍兵士二人が村にたどり着いた。
官能的な描写はほんのちょっとだけ。むしろ、『かげろう』という邦題に示されるように若者の短い命を表現したかったのであろう。ラストが駆け足で流されていくので、観終わってからジワリとくるパターンだ。「あっさりしすぎ」とも言う・・・
この映画を観てジュネが『ロング・エンゲージメント』の主役に抜擢したといわれるウリエルと、ベテラン女優のベアール。子役の二人も名演技だ。カエルと遊ぶ女の子クレメンス・マイヤーが可愛い。