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ヴィニシウス 愛とボサノヴァの日々評論(1)
彼がこよなく愛したリオデジャネイロを舞台に、現在のブラジルを代表するアーティストたちのインタヴューと演奏が綴られていきます。生涯に400篇を超える詩と400曲の歌詞を世に送り出した、ボサノヴァ史の最重要人物ヴィニシウスの曲がライブ映像で歌われるだけに、結構知っている曲も多くて、改めてボサノヴァに秘められている情熱とかロマンに触れて、ちょっとお酒を飲みたくなりました。
何せヴィニシウスは酒豪で、真っ昼間からバケツのようなグラスにジントニック並々注いで飲み始め、一晩で何本ものウィスキーを飲み干すほどの酒浸りの人生を過ごしていたそうです。そういう人が描く、酒と恋に酔い続けた人生の唄は、どこか自嘲気味に酒をチビチビやりたくなる雰囲気を持つものなのでしょう。
作品では、ボサノヴァという音楽ジャンルを創生したと言われている作曲家のアントニオ・カルロス・ジョビンやブラジル音楽のギター奏者バーデン・パウエルをはじめとするヴィニシウスと関わった伝説のアーティストたちの貴重な写真やアーカイヴ映像を織り交ぜながら語られていました。
ただ登場人物がジョビンなどに主要人物に偏りすぎていていることと、構成面でも時間軸通りの平凡な進行で、サプライズやインパクトという点では、弱いと思いました。 その点では、音楽系ドキュメンタリーの『レスポールの伝説』や『ザ・ローリング・ストーンズ シャイン・ア・ライト』のほうが、強烈な印象であったのです。
それでもヴィニシウスの人生は大変興味深いもので、映画の主人公になってもおかしくない存在です。恋をするために生きているような人物で、結婚してしまうとすぐ恋の情熱が冷めてしまい、すぐに離婚するということを9回も繰り返したのですから、大したものです。子供達のインタビューも挿入されておりましたが、父親の色恋沙汰には一切口を挟まないことが、不文律の家族の掟になっていたようです。あきれてものも申せないというか、年中行事になっていたのでしょう。
もう一つ、家族を困らせたことは、経済面でも。宵越しの金は持たない主義のヴィニシウスは、毎晩飲み屋に集まっていた見ず知らずの客にも大判振る舞いをして、『イパネマの娘』のヒットで掴んだ大金すら、あっという間に使い果たしたそうです。
だから家族は、外交官としての収入もそれなりにあるはずなのに、いつも借金を抱えて生活に困窮していたのだと言うから、意外でした。
そんな文学青年というか吟遊詩人まんまのヴィニシウスは外交官としても有能だったことが意外です。外交官としてはブラジルの国連大使を務めるほどのキャリアがあったそうです。けれども恋のためには、仕事をすっぽかして勝手に赴任地からリオに帰ってしまうし、酒のためなら、外交官のメンツをかなぐり捨てて飲み回ったというから、宮仕えしつつも、自由人であったのでしょう。ブラジルは一時革命が起こり軍事政権となっても外交官として仕事を続けられたようなので、結構官僚組織の中での処方術を心得ていたのでしょう。
そして、ジョビンたち仲間が口々に語る、彼の遺したや遺言のような言葉。それはもし生まれ変わるならどんな人間になりたいかと仲間の誰かがヴィニシウスに聞いたとき、あまりにそのコメントが面白かったので、伝説になってしまったようです。
ヴィニシウスは生まれ変わるとしたら、もっとあそこ?が大きくなればいいs答えたそうです。
9度目の結婚は64歳の時に。お相手は22歳の花嫁と言うから驚きです。生涯絶倫だったのかもしれません。羨ましい(^^ゞ