新鋭女性監督エリザ・ヒットマンが少女たちの勇敢な旅路を描き、第70回ベルリン国際映画祭銀熊賞(審査員グランプリ)受賞したドラマ。友達も少なく、目立たない17歳の高校生のオータムは、ある日妊娠していたことを知る。彼女の住むペンシルベニアでは未成年者は両親の同意がなければ中絶手術を受けることができない。同じスーパーでアルバイトをしている親友でもある従妹のスカイラーは、オータムの異変に気付き、金を工面して、ふたりで中絶に両親の同意が必要ないニューヨークに向かう。性的アイデンティティに悩む青年を描いた「ブルックリンの片隅で」で2017年サンダンス映画祭監督賞を受賞し、一躍注目を集めたエリザ・ヒットマンの長編3作目。「ムーンライト」のバリー・ジェンキンスが製作総指揮に名を連ねる。
17歳の瞳に映る世界評論(20)
会話は、きわめて少ない。「彼女の "瞳に映った世界" をカメラを通してあなたたちも観てくれ」ということなのだろう。自分も任せて、たゆたった感じ。
男性として観た方がいい映画だったなあとも感じた。彼女たち二人に関わってくる男性たちのあからさまな性的欲求(バイト先店長、露出狂、ナンパ青年)。そういうものに常日頃から晒されているんだという立場を共有することから始めよう。相手を理解するってこんなことから始まるんだろう。
とくに印象的なのは、中絶手術に割く時間の長さ。そして手術の前後でのカウンセラーとのやりとり。その一言一言が、「『子は宝。中絶なんかするな』なんて簡単に言うな」という気持ちを自分の中に生まれさせる。「それがあなたの選択ならば、どんな理由でもいい」という言葉。しみる。「なぜ妊娠した」という謎解きなんかではないことに、ほんとうに大切な意味があると感じる。
田舎(ペンシルベニア州)と都会(ニューヨーク州)の考え方の大きな違いを際立たせ、どちらであるべきかを俺たちに考えさせる。
う~ん。とにかく観たままをこちらに提示し、こちらが考えることを強要するわけではないが静かに期待しているような感じがする映画。
老若男女、すべての人に一度は観てほしい映画。エンターテインメント性は期待しないでほしいけれど、普通に最後まで観られると思います。
おまけ
おお、アメリカでもカラオケボックスは当たり前なのか!
田舎の17歳女子が、田舎の17歳という限界を抱えながら、突破口を求めて慣れない大都会NYへ行く。なんとも危なかったしいロードムービーで、自分が16歳の時に、深夜のマンハッタンをうろつき回る機会があり、とにかく不安を押し殺して歩いたことを思い出したりもした。
ただ、自分の体験と完全に異なっているのは、やはり主人公コンビが女性であることで、女性というだけで危険の質も変わるし、寄る辺のなさの深刻度も全然違う。それでもおぼつかないながら、堕胎というミッションのために邁進する主人公オータムから目が離せないのだが、ふと、サポート役に徹してくれる従姉妹のスカイラーのことが気にかかる。
オータムはただ17歳なりに未熟なのだが、一見ふんわりしたスカイラーは、最初から断固として従姉妹を支えようとし、バイト先のカネを盗み、重い荷物を持って、つねに伴奏してくれる。彼女の覚悟を支えているのは何なのか? おそらく、まだオータムが見ていないゴミみたいな女性差別を目の当たりにし、体験してきたからではないか。
表では描かれないスカイラーの物語が常に裏面として存在していることが、作品の奥行きであり、演じた2人の女優が完全に等価なW主演である証拠だと思う。
ポスターだと、左の美少女がまるで主人公みたいな撮り方ですが、右のうなだれてるk.d.ラングが主人公でした。
そのk.d.ラングが妊娠して中絶するまでを描いた映画です。(この二人は従姉妹という設定)
美少女が妊娠した設定の方が観客は増えるんだろうけど、あえてk.d.ラングで行ったところに生々しさが。
手持ちカメラでずっと追っかけてるので、一緒に旅してるような気分に。
どうやって夜を明かしたのか、うまく省略されてたけど、一体どこで寝たんでしょう?