「ヒメアノ~ル」の吉田恵輔監督によるオリジナル脚本作品で、古田新太主演、松坂桃李共演で描くヒューマンサスペンス。女子中学生の添田花音はスーパーで万引しようとしたところを店長の青柳直人に見つかり、追いかけられた末に車に轢かれて死んでしまう。娘に無関心だった花音の父・充は、せめて彼女の無実を証明しようと、事故に関わった人々を厳しく追及するうちに恐ろしいモンスターと化し、事態は思わぬ方向へと展開していく。悪夢のような父親・添田を古田、彼に人生を握りつぶされていく店長・青柳を松坂が演じ、「さんかく」の田畑智子、「佐々木、イン、マイマイン」の藤原季節、「湯を沸かすほどの熱い愛」の伊東蒼が共演。
空白評論(20)
はじまりは万引き未遂事件だった。
娘を亡くした父親の狂気と破壊、そして再生の物語。
ひとつの女子中学生の死によって、皆が傷つき、苦しみ、憎み、そして寄り添う。
彼らの心の空白は埋まるのか。それとも…
辛く苦しい中に少しでも希望を見出せる、とても自分好みな傑作でした。
前半はとにかく辛い。
一度轢かれたあと反対車線のトラックに轢かれるという、やけにリアルな事故シーンがトラウマレベル。
その後に、頭が潰れたとか内臓飛び出たとか、言葉で聞くだけでも辛い。
加熱する偏向報道、ネットの憶測。
本当にマスゴミ過ぎてもう。
なんというか、すごくリアル。
〇〇をよく知る〇〇の知人ってよくあるけど、信じちゃいけないね。
誰も悪くないし、誰もが罪を抱える。
進めば進むほど自分の首を絞めるように苦しくなって…
そして、後半。
謝罪と感謝。
次第に世間の関心は薄れていき、当事者の心も落ち着いてくる。
キャンバスに筆を当てる音、夕凪の海辺、優しさに包まれるラスト。
何度も何度も泣いてしまった。
レクイエムのような音楽にエンドロールの文字が滲んでいた。
信じたくない、許せない、疑念は晴れない。
でも、俺はあんたに謝ってない。
今は謝れないが、少し時間をくれ。
誰しもどこかしら共感できるところがあると思う。
ああいう父親やああいう雰囲気の家族も相当数いると思う。
少女の死亡事故という非現実的なことが起きた時、“普通”の人たちはどうなってしまうのか。
現れる本性と最後に包み込む優しさ。
きっとまだこの世界は美しく優しい。
あの日、心は繋がっていなくとも、同じ空を見ていた。
あのイルカ雲の空を。
ダークホース。
予告編を見てモンスター化した父親の理不尽に店長が振り回される一種のサスペンス映画かと思っていたが、もっと深く心に突き刺さる映画であった。
双方が被害者でありつつも加害者でもある複雑な関係。
それをマスゴミや周囲の野次馬たちが煽り責め立て追い込んでいく。
一体どうすればよかったのか、この映画で示されることはない。
ただ、ある母親の慟哭を噛み締めつつも毅然とした態度で語られた懺悔の言葉が頭から離れない。
万引き未遂から始まるストーリーで重いテーマだが人間味あふれる素晴らしい作品で独自の世界観に酔いしれました。古田新太と松坂桃李の二人の演技も秀逸でそれぞれの感情が痛いほど伝わってくる。特にラストの展開が心に突き刺さりました。
2021-136
スーパーの店長である松坂桃李が、万引きをした少女を追走することで起きる事故によりあまりの人生が大きく狂いはじめる。
万引きをした少女の自業自得か。万引きに対するスーパーのいきすぎた対応が起こした過失か。そもそも万引きを防げなかった親の監督不足なのか。全員が自責と他者への責任転嫁の間で大きく心が揺れていく姿を、松坂桃李と古田新太のずば抜けた演技力でしっかりと視聴者に伝えてくる。
終盤のシーンで古田がボソッと呟く「皆んな、どうやって折り合いつけてんのかぁ」と言う言葉の持つ重み。
被害者遺族のどこにぶつけたらいいか分からない怒り・悲しみ・後悔が溢れる作品。
吉田監督作品の中では、ユーモアやえぐみは抑えめで終始シリアスな空気感。それでも重苦しくなり過ぎないのはさすがです。
「娘を失った可哀想なお父さん」とは到底思えないような添田という人物が、娘の死や自身と向き合うことで変わっていく。ラストシーンは涙が溢れました。
たくさんの喪失のあとでも、希望を感じることで救われる。人生そう悪いことばっかりじゃないと思わせてくれる作品でした。