「凶悪」「孤狼の血」の白石和彌監督が、櫛木理宇の小説「死刑にいたる病」を映画化したサイコサスペンス。鬱屈した日々を送る大学生・雅也のもとに、世間を震撼させた連続殺人事件の犯人・榛村から1通の手紙が届く。24件の殺人容疑で逮捕され死刑判決を受けた榛村は、犯行当時、雅也の地元でパン屋を営んでおり、中学生だった雅也もよく店を訪れていた。手紙の中で、榛村は自身の罪を認めたものの、最後の事件は冤罪だと訴え、犯人が他にいることを証明してほしいと雅也に依頼する。独自に事件を調べ始めた雅也は、想像を超えるほどに残酷な真相にたどり着く。「彼女がその名を知らない鳥たち」の阿部サダヲと「望み」の岡田健史が主演を務め、岩田剛典、中山美穂が共演。「そこのみにて光輝く」の高田亮が脚本を手がけた。
死刑にいたる病評論(20)
岡田健志の倫理観を揺さぶられる姿に胸を打たれる。
宮崎優のラストへかけての華麗なる変身ぶりに惚れる。
たぶんテレビ放映時にはカットのオンパレードだろうから、是非とも劇場で見てほしい。
一番最初に認識した監督であり、かれこれ『日本で一番悪い奴ら』から追っている。しかしながら、相変わらず鋭利な表現をドラマにもヴァイオレンスにも触れるのはさすが。お手の物って感じ。今作もヒーヒー言いたくなるような凄惨さが漂っているし、作品を追う度に逃げられない感じがしてくる。本当にその辺が上手い。ちょっと『冷たい熱帯魚』ぽくありつつ、PG12によく収めたなと思う。
殺人鬼から届いた手紙から始まる、冤罪の証明。この作品に漂う、目に見えぬ「囚われ」が充満。知らず識らずのうちに自身も身動きを取れないような感覚に陥る。その中で垣間見える心理戦がスリリングかつダイナミック。シリアルキラーの造詣を深めたからこそ見えてくる、異質な普遍性がより世界観のおぞましさを引き立てている。そんな脚本は高田亮氏。色々書いてるけど、こんなサスペンスもイケるのか…。作品のテンポも非常に重厚で、小説を読んでいるような感覚に近い。ジャーナリズムの形骸を使いつつ、個々の心理に落とし込めているから凄く恐ろしい。
そんな主演は阿部サダヲさんと岡田健史さん。阿部さんはとにかく目が強烈で、このあともトラウマ級に思い出すはず(笑)。岡田健史さんも声が魅力的で、重いトーンが背筋を凍らせる。実は2人がそれぞれ寄りかかっている部分があるからこそ、対峙する時の答え合わせと駆け引きがソソる。宮崎優さんも年々深みが出てきて良い。『うみべの女の子』といい、作品の袖を引き出してくれる。今後も注目したい。
何故に怖い映画なのに興味が引かれるのか。それは、そこにある心の深層に光るモノが美しく見えてしまうからだと思う。相変わらず裏切らない面白さ。必見です。
"彼は決まったやり方で"、毎回似た監督らしい題材 --- 今回それを超えるだけの新鮮さを自分の中で見出だせなかったのが残念だった。分かりやすい部分で言えば『凪待ち』の主人公がダメだと知りながらついついギャンブルしちゃう前の内面的揺らぎを端的に表す、カメラの角度の付け方みたいなのも、本作でも見ることができた。中でもやっぱり主人公2人がガラス1枚を挟んで対面する面会シーンは、ガラスの反射も用いた演出で見応えあった。時に二人を重ね同一視するなど、観客もまたその場に居合わせたかのように、この【魅力的な和製ハンニバル・レクター(?)によって】深淵を覗き込み心の中を読まれるような巧みな印象操作まんまと術中にはまる。一方で、だからこそ、途中途中プロジェクターで壁に投影するような演出には正直戸惑った。きっと演出の意図としては、それまでに十分観客を引き込めているはず(+過去のことだから視覚的イメージで補わないといけない)だから、ここでこういうことしても作品に集中してもらえるだろう的な読みだろうか。
決めてよ、お母さん決められないから。じゃあここで疑問が浮かぶかもしれない、『凶悪』とどう違う?正直、監督の大ファンというわけでもないので未だに分かっていない。例えば『セブン』『ゾディアック』、そして開き直ったようにそれら連続殺人鬼を定義する極め付きのドラマシリーズ『マインドハンター』と【フィンチャー = シリアルキラー/殺人事件のステレオタイプ的イメージ】があるように、白石監督にも一定の薄暗く血生臭く暴力的なイメージ(ともはや監督の相棒兼分身?音尾琢真)が付きまとう。だから気になる人は見てみるしかない。安心してください、今回も胸糞ですよ?
榛村に取り込まれそうになりながらも抗おうとする大学生・雅也を演じた岡田健史も、阿部とのコントラストが絶妙だ。長髪の謎の男は誰が演じているのかわからないまま、エンドロールで岩田剛典の名を見て「ああ、あの男か」とようやく気づいた。それほど見事にスターオーラを消している。
そして、雅也と同じ大学に通う灯里を演じた宮崎優。初めのうちこそ彼女の目立たず内にこもった感じが、映画の中で“映えていない”ように感じたが、次第に秘めていたものが表に出てきて、あの地味目な見かけも実は伏線だったかと驚愕させられた。過去の出演作「任侠学園」「うみべの女の子」を観たのに印象に残っていないが、本作での演技は映画関係者と観客の心にしっかりと刻まれるだろう。宮崎優を世に出す一本でもある。