ベストセラー作家・湊かなえの同名小説を映画化し、戸田恵梨香と永野芽郁が母娘役を演じたミステリードラマ。ある未解決事件の顛末を、“娘を愛せない母”と“母に愛されたい娘”それぞれの視点から振り返り、やがて真実にたどり着くまでを描き出す。女子高生が自宅の庭で死亡する事件が起きた。発見したのは少女の母で、事故なのか自殺なのか真相は不明なまま。物語は、悲劇に至るまでの過去を母と娘のそれぞれの視点から振り返っていくが、同じ時間・同じ出来事を回想しているはずなのに、その内容は次第に食い違っていく。語り手となる母のルミ子を戸田、娘の清佳を永野が演じ、ルミ子の実母を大地真央、義母を高畑淳子、ルミ子の夫を三浦誠己が演じる。「ナミヤ雑貨店の奇蹟」「ヴァイブレータ」の廣木隆一監督がメガホンをとり、「ナラタージュ」の堀泉杏が脚本を担当。
母性評論(20)
原作の『母の手記』冒頭の一行です。
映画でも登場人物が「胡散臭い」と言ってましたが、本当にその通り。
母娘3代のキャラクター設定は、呆れるほど嘘っぽさに溢れています。少し誇張はあるけどそういう人いるかもしれない、と思わせることもしません。ある意味、隙がないというか手を抜かない、というか。
真っ直ぐに育った、という場合、普通は開放的で大らかな家庭で伸び伸びと、というイメージだと思いますが、永野芽郁さん演じる清佳は鬱屈を抱えたまま、精神的な歪さを保持したまま、真っ直ぐに育ちました。ここにも嘘っぽさしかありません。
原作者の湊かなえさんは、これが書けたら作家を辞めてもいい、と言ったそうですが、その後の活躍を見る通り、堂々と嘘をつきっぱなしです。
というわけで、この映画(原作も含めて)はすべて虚構、虚飾です。ストーリーや謎解きのミステリーという以上に、作品自体が我々を騙しにかかってきてます。
タイトルの『母性』から受けるイメージとか、作家生命を賭けてる、という話は、この作品がいかに人間存在の本質にまで迫る重い作品であるか、という錯覚を起こさせますが、テーマ性を読み取ろうとするとモヤモヤしか残りません。だって、もともとそんなつもりで書いてないのですから。
作家と出版社と映画製作に関わるすべての人たちが、長い時間をかけて我々を騙しにきてるミステリー。
胡散臭さの他に何もないけど、実は本当にそれだけ⁈
私は映画を見終わってやっとそれに気が付きました。
以上、極めて個人的な感想で、たぶんそういうことだっだのではないだろうか、という一種の妄想です。当然、客観的な根拠はひとつもありません。
【追記】
こういう置き換えに意味があるかどうかはともかく、こちらの方が分かりやすい気がしたので…
戸田恵梨香(母)…承認欲求が極端に強い中間管理職
大地真央(祖母)…褒め上手な上司
高畑淳子(父方の祖母)…超パワハラ上司
永野芽郁(娘)…戸田恵梨香の部下として配属された新人
褒め上手な上司との蜜月関係はとても幸せだったが、最近配属された新人がその上司からの覚えがめでたいことで、強烈な嫉妬心を感じる。ほどなく事故でその上司が亡くなり、超パワハラの上司がやってくるが、自分の仕事のスタイル(頑張れば褒めてもらえる、褒めてもらいたい)が有効であるとの盲信は変わらず、部下(新人)への仕事上の配慮は行き届かず、パワハラ上司への忖度だけが、責務のようになる。
そして、悲劇が…
でも高畑淳子さん、戸田恵梨香さんの演技、狂気でしかない!凄く刺さりました。
娘にもなれない私には
理解も共感も出来ない内容だった。
せいぜい、家に帰りたくない旦那の
気持ちが分かるとしか言えない。
私の母は厳しくて、私にとって敵でした。
さやかのように、お母さんの立場になって寄り添うことはできなかったと思います。
大人になって、母も子育てが初めてだったのだから、試行錯誤だったのだとわかります。
そして私は結婚していますが、子供が欲しいと思っていません。子育てって面倒そう、大変そう。というのがあるからです。この映画をみて、すこし、そんなに頑なに子供が要らない、と思わなくてもいいかな位に気持ちが進みました。
命を繋いでくれてありがとう、と言われるような存在が子供というものなんだなとわかりました。
「告白」(2010年)は中島哲也というノリに乗っていた鬼才監督によって映画化されたこともあり、「R15+」指定を受けながらも第34回日本アカデミー賞で最優秀作品賞、最優秀監督賞、最優秀脚本賞、最優秀編集賞と、文字通り総なめの状態になるくらいのクオリティーでした。
そんな背景もあり、本作を原作者の湊かなえが「これが書けたら作家を辞めてもいい」とまで語っていたため、否が応でも期待値が上がってしまいました。
さらには、「母の証言」「娘の証言」と、それぞれの視点で描かれていくため、勝手に「どんでん返し」的な物語なのだろうと思っていました。
ただ、個人的に「どんでん返し」的なものは、思っていたほどには感じませんでした。
「告白」のようなものを期待して見ると、やや肩透かし状態になるのかもしれないので、見る際には役者の演技の応酬を中心に見るのがいいかと思います。
中でも戸田恵梨香の演技の使い分けは注目に値します。
また、義母役の高畑淳子の怪演ぶりには、場内からたびたび笑いが飛び出すほどの状態になっていました。
個人的には、本作が中島哲也の監督・脚本バージョンだとどうなるのか興味を持ちました。
ネタバレ要素になり得るため詳しくは書きませんが、時代設定がやや分かりにくいのかもしれません。
見る人によってはタイトルの「母性」というキーワードにハマって、より物語に入り込めるのかもしれませんし、癖の強い、割と極端な登場人物たちが多く出てくるため、そのセッションを楽しむのが良いと感じました。