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男はつらいよ 望郷篇評論(10)
山田洋次が監督に復帰したシリーズ5作目。
『男はつらいよ』が元はTVドラマだった事は結構有名な話。(つまり、昨今のTVドラマ→映画の超元祖でもある!)
そのTVドラマ版でさくら役だった長山藍子が今回のマドンナ。
さらに、おばちゃん役だった杉山とく子がマドンナの母親、ひろし役だった井川比左志がマドンナの恋人(寅さん曰く、「ひろしに似ている」)。
TVドラマ版のキャストと映画版のキャストの顔合わせで、当初は本作を以てシリーズを完結させようと考えていた。
しかし、評判の良さからシリーズは続行。
『男はつらいよ』が長寿シリーズになったきっかけの一作でもある。
いつも思うが、ここで終わらなくて本当に良かった!
まず、OPシーンがこれまた傑作。
旅先でおいちゃんが危篤の夢を見て、心配して電話したら危篤状態だとからかわれ、それを信じて葬儀屋を呼んだりして大騒ぎ。
今回の話のメインは…
寅さん、真剣に堅気の仕事と生き方を考える。
それには経緯あって…
ある時、寅さんの渡世の世界の親分が危篤との報せを受け、会いに行く。
その親分は、死ぬ前にひと目、会った事の無い息子に会いたいと願う。
寅さんは息子を探し出すのだが…
息子は会う事を断固拒否。
事情を聞き出すと…
母親に産ませるだけして、後は知らん顔。母親が死んだ時も香典一つ寄越さない。
実は一度だけ息子は父に会いに行った事あるが、女を大勢囲み、その女たちを殴る蹴るの鬼のような男。
散々好き勝手やって、自分が死ぬ時になって、詫びを入れて会いたいなんて、身勝手にも程があり過ぎる!
その息子も本心は複雑な心境なのだが…。
寅さんもさすがに自分の身に置き換える。
これが渡世人の末路。
これでいいのか…?
そして真面目に生きようと決心した。
地道に、汗水垂らし、油まみれになる仕事を。
寅さんという人物、何かにモロに影響受け易い。
今回も実はそう。
一見、大真面目そうな展開ではあるが、滑稽でもある。
タコ社長の工場で働こうとするが、断られ、柴又中を当たるが、断られ、いつも通りプッツン!
何処も人手不足だが、さすがに寅さんは…。
まあ、分からんでもないけど…。
それから一ヶ月、寅さんは浦安に居た。
そこの豆腐屋で働いている。
地道に、汗水垂らし、油まみれになりながら。
ひとまず安心するさくら。
でも、寅さんは何故ここで働いている…?
たまたま人手不足で働き口がが見つかったという事もあるのだが…、
この豆腐屋、老いた女将さんと、活発な娘の二人で切り盛りしている。
まあ、そういう事。
ずっとここで働いて欲しいな…なんてプロポーズ的な事も言われ、有頂天!
しかしそれには理由が…。
マドンナは恋人との結婚を考えていて、すると豆腐屋の後を継ぐ人は居ない。
今回は早かった! 秒速のフラレ!
いいよ、ずっと働くよといっておきながら…。
結局寅さん、失恋でまた旅に出る。
頭のてっぺんから足の先っちょまで根っからの渡世人の自分に堅気の商売や生き方は…。
でも理由はどうあれ、一時は真剣に生きようとした。
渡世人に堅気はつらいよ。
ラスト、一時は追い払った舎弟と再会。
渡世の挨拶をするその姿に、やっぱりこれが、この生き方が寅さん!…と思わせる。
とらさんの心を弄んで酷い。
ま、映画のシナリオを演じただけなんだけどね。
寅がさくらに地道に生きるように言われて千葉で豆腐屋で働く。寅が住んでいる物置小屋が川べりで水の上に建っていて、増水が心配になる建物だった。そこの娘が結婚すると分かった途端出て行ってしまい、娘も娘で無神経なのだが寅も無責任で、残されたおばあさんが気の毒だった。
北海道に親分さんの見舞いに行くと、生き別れの息子が蒸気機関車の乗務員で、蒸気機関車の機関室の中がたっぷり見られた。