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イーディ、83歳 はじめての山登り評論(16)
田舎のやんちゃな少女だったと自称するイーディは、結婚後の半生をずっと夫によって人格をスポイルされてきたと語る。しかし今こそ時は来たれり。心も身体も自分の自由でいることができる。
何かをするのに遅すぎるということはないという、行きつけのカフェのマスターの言葉に勇気づけられたイーディはスコットランド行きの列車に乗る。その時もまだ迷っていたイーディだが、列車が川を渡ると漸く覚悟を決める。その川はイーディにとってのルビコン川である。賽は投げられたのだ。
気位だけは高いイギリス婦人らしく、気安くイーディと呼びかける人々に「ミセス」と呼ぶようにたしなめる。その精神性の幼さに、なるほどと納得した。結婚後のイーディの人生は、夫に対する不満を溜め込むだけで、人間的には何ひとつ成長しなかったのだ。つまり83歳の小娘なのである。そう考えれば、舟を漕ぐのが下手なジョニーを思い切り笑ったり、娘と言い合いをしたりするのも当然だ。
と、ここまで考えて気がついた。世の女性たちはイーディと同じように、どんなに歳を重ねても、心の奥には小娘が棲んでいるのではなかろうか。本作品が世の女性たちの共感を得るとすれば、理由はまさにそこにある。さらに敷衍すれば世の男性諸氏も、どんなにジジイになろうとも心の奥には少年が棲んでいる。行ったことのない場所に行きたいと思うし、見たことのないものを見たり、どこかで誰かに出逢ってみたいと願う。イーディと同じなのだ。
という訳で本作品は人生讃歌の傑作である。世の中には美しい風景があり、優しい若者がいて、窮地を救ってくれる無口な山男がいる。出かけるのに遅すぎるということはないのだ。