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単騎、千里を走る。評論(7)
とても良いシーンである。後味のとても良い映画。
高倉健とチャン・イーモウが組んだ2005年の作品。
正直特筆するほど素晴らしいって訳でもないが、この作品はやはり、運命的な巡り合わせ、それを反映させたかのような話にじわじわ余韻が残る。
文化大革命後、中国で初めて公開された日本映画が、高倉健主演の『君よ憤怒の河を渉れ』。この作品は空前のメガヒットとなり、以来高倉健は中国でも国民的大スターに。
チャン・イーモウも高倉健に心酔した一人。映画監督となり、名作『あの子を探して』を発表。これを絶賛したのが高倉健。
言わば“両思い”の二人が組むのは運命的なものを感じずにはいられない。
そんな二人が組んだ作品が人と人の繋がりを描いた感動作なのは必然であった。
漁師の初老の男・剛一の元に、長らく疎遠の息子が病に倒れたとの報が入る。見舞うが、対面すら拒絶される。
息子は民俗学者として、中国で長い歴史を持つ仮面劇を撮影し、途中であった。
それを知った剛一は、息子の代わりに仮面劇を撮影しようと単身中国へ…。
寡黙で不器用な役柄はまさに高倉健の為の役。
役柄も話もまるで高倉健に当て書きしたようだ。
イーモウのリスペクトの深さを感じさせる。
中国に渡ったのはいいものの、問題続出。
劇を演じる役者は今刑務所の中に。
何とか撮影許可まで漕ぎ着けるが、その役者が突然泣き出す。息子に会いたい、と…。
剛一の目的はかなりの無理難題。
その為に、異国の地で、異国の人々が、協力の手を差し伸べる様が、出来過ぎではあるが静かに胸を打つ。
何故彼らは知らぬ異邦人の為に尽力するのか…なんて、わざわざ言葉で説明する必要も無いだろう。
役者の為に息子を捜す剛一。
言うまでもなくこれは、彼ら父子に自分と自分の息子を重ね合わせたのだろう。
旅路の中、剛一に悲しい知らせが。
この旅で、父と息子の関係に変化は起きたのだろうか。
結局疎遠のまま、再び言葉を交わす事も顔を合わせる事も出来ないまま…。
しかし、間違いなく確かに、父と息子の思いは再び通じ合った。
高倉健とチャン・イーモウが組んだのは本作一回だけ。
また組んで欲しかったとも思うが、一回だけのままなのもいい。
運命的な巡り合わせはそう何度も訪れるものじゃない。
生涯唯一の。