一人息子を誘拐した犯人と戦う父親の行動を描いたサスペンス。身代金を巡るアイディア、巧みなストーリー・テリングでサスペンスを醸し出す演出の手腕が見どころ。グレン・フォード主演、アレックス・シーガル監督の「誘拐」(56)を、「アポロ13」のロン・ハワードの監督でリメイク。アレクザンダー・イグノンの原案を基に、「クロッカーズ」のリチャード・プライスが脚本を執筆。製作は「マイ・ルーム」のスコット・ルーディンと「ナッティ・プロフェッサー
クランプ教授の場合」のほかハワード作品のほとんどを手掛けているブライアン・グレイザー、「恋の闇
愛の光」のB・キプリング・ハゴピアンの共同。製作総指揮のトッド・ハロウェル、音楽のジェームズ・ホーナー、美術のマイケル・コレンブリス、編集のダン・ハンリーとマイク・ヒルは「アポロ13」に続いての参加。撮影は「トリコロール
赤の愛」のピョートル・ソボシンスキ。衣裳は「ザ・ファン」「カジノ」のリタ・ライアック。主演は「リーサル・ウェポン3」以来の共演となる、「ブレイブハート」のメル・ギブソンと「ゲット・ショーティ」のレネ・ルッソ。共演は「アポロ13」のゲイリー・シニーズ、「ブロークン・アロー」のデルロイ・リンド、「I SHOT ANDY WARHOL」のリリ・テイラー、「マッド・ラブ」のリーヴ・シュライバー、ポップス・グループ〈ニュー・キッズ・オン・ザ・ブロック〉のメンバーだったドニー・ウォルバーグ、「ナチュラル・ボーン・キラーズ」のエヴァン・ハンドラー、俳優ニック・ノルティの実子である子役のブローリー・ノルティ、「クルーレス」のダン・ヘダヤほか。
身代金評論(17)
ストーリー: 85
キャスト: 80
演出: 85
ビジュアル: 70
音楽: 65
誘拐された息子が普通のやり方で帰ってくる保証は無い。実際、犯人逮捕の手がかりとなる情報を持っている人質の解放は犯人にとっても危険で、身代金を払っても人質が帰ってこない事件はいくらでもある。
交渉を通してわかったのは、計画をたてた犯人は感情的になるチンピラというより、なかなか冷静で有能そう。恨みによる犯行というよりは、金が目的。そんな相手への分析に対してのメル・ギブソンの行動は大きな賭けではある。それが裏目に出て最悪の事態になる可能性は充分にある。本人にとっても厳しい選択であるのは間違いない。でも子供の生存すら確認できない状態で犯人主導のまま彼らのいいなりになって交渉を続けたからといって、それがうまくいくという保証もまたないのだ。
それでもギブソンは受身一辺倒から戦術を変えることにより、立場を強くして子供の声を電話越しに聞き子供の生存確認に成功した。ギブソン同様に犯人もまた計画通りにことが進まなくなって追い詰められている。そんなことを交渉を通して感じながら、お互いに神経をすり減らしながらぎりぎりの綱渡りをしていく交渉の過程が緊迫感があって楽しめた。
子供が誘拐されて助けたいと思う親は、取り乱すだけとは限らない。プロの交渉人は相手の言うことを黙って聞いていいなりになるだけの交渉はしない。ギブソンのやり方は一人の父親というよりはまるでプロの交渉人と言えるほどの高い技術と戦術だった。ちょっとうますぎかなとも思うが、ビジネスで大成功した人の設定だからそれまでも数知れないきわどい交渉をやってきたはず。先の見えない交渉をする作品として映画史に残るかなりの面白さ。場面が変わった後半にも交渉があります。そしてこの一歩踏み外すと終わりという駆け引きが凄かったので、いい映画だと思います。
劇場公開時鑑賞。ちょっとひねった設定と俳優陣の手堅い演技で、各人の思惑と駆け引きで話がどう転がっていくのか予想がつかずドキドキした。