反英世相高まるアイルランドの寒村を舞台に、不倫の恋に燃える人妻の業を描く。製作はアンソニー・ハヴェロック・アラン、監督は「アラビアのロレンス」「ドクトル・ジバゴ」のデイヴィッド・リーンで、他のオリジナル脚本のロバート・ボルトや撮影のフレデリック・A・ヤング、音楽のモーリス・ジャール、編集のノーマン・サベージ等は両作品の時と同じスタッフである。出演は「秘密の儀式」のロバート・ミッチャム、「遥かなる戦場」のトレヴァー・ハワード、「召使」のサラ・マイルズ、「さよならを言わないで」のクリストファー・ジョーンズ、「ふたりだけの窓」のジョン・ミルズ、その他レオ・マッカーン、バリー・フォスターなど。メトロカラー、スーパー・パナビジョン七〇ミリ。
ライアンの娘評論(5)
それにしても、歯がゆい。
夫にばれても恋に執着するロージー、妻を寝取られても戻ってくると信じる間抜けなロバート、嫉妬とやっかみだらけの民衆、そして、保身のために娘を見捨てたライアン。
全然、知り合いになりたくない人たち。
牧師と従者マイケルだけが、一貫して生き方を通している。
ロージーが、自分も蔑まれる立場になってはじめてマイケルの気持ちがわかり、それまで毛嫌いしていた彼の手の甲にキスをする場面は、はっとした。
もしかして、「ロージー」でなく、「ライアンの」とつけたタイトルに、何か意味があるのか?
・ ローズ(サラ・マイルズ)は憧れていた教師チャールズ(ロバート・ミッチャム)と結ばれるが、何不自由ない生活が、どこか満たされない。
-彼女が、浜辺に残されたチャールズの足跡の上に自らの足を置きながら歩く姿と、後半、チャールズがローズとドリアン少佐の足跡を見るシーンの対比は印象的である。彼女の姿はアイルランドの哀しい歴史に縛られずに生きようとする新しき価値観を持った人の象徴であろうか。大きな代償は負うことになるが・・。-
・そこに、英独戦争の英雄だが、心理的ダメージを負っているドリアン少佐が赴任して来てローズと恋に落ちる。
-二人の森の中での逢瀬が幻想的な美しさである。ローズの深紅のネッカチーフ、上着と森の鮮やかな緑のコントラストが鮮烈。今作品は海岸の波打ち際の風景も印象的である。ドリアン少佐の退廃的な表情は何を物語っているのであろうか?-
・アイルランド独立のために、密かに武器を集めるゲリラ達を暴風雨の中、手助けするアイルランドの人々。だが、ゲリラ達はドリアン少佐率いる英国軍に捕まり、彼らの怒りは少佐と恋に落ちたローズに向けられる。
-暴風雨の中、海から武器を引き上げるシーンは圧巻である。
又、ローズがドリアン少佐と恋に落ちた事を皆に知らしめてしまう無垢でローズを長年想うマイケルの仕草も、印象的である。-
ドリアン少佐が心の病のため、自ら爆死した後、チャールズとローズは人々の罵声の中、村を出る・・・。
-マイケルはここでも、狂言回し的役割を果たす。又、数少ない知的人物として描かれるコリンズ神父の"分からない・・"と去り行く二人が乗るバスを見ながら言う言葉も心に染みる。-
〈冒頭からラストまで、狂言回しの様に描かれる知的障害があるマイケル(ジョン・ミルズ)の姿がローズの父親、ライアンを始め劇中登場する愚かしくも、愛しき人々を表していると思った作品。多様な見方が出来る作品でもある。〉
マイケル(ミルズ)が 多分、そう
そして彼の存在と アイルランドの雄大な風景が、
この映画を 叙事詩のようにしている
沼地で花を集めるマイケルとランドルフの出会い
酒場で 彼の心の傷に気が付き、怯える、マイケル
自然と戯れる、マイケル
二人の不倫を察知して 驚く、マイケル
(そして 無邪気に周知させてしまう… )
ランドルフの終焉を導く、マイケル…
物語の端々に登場する 自然と一体化したような
マイケルの不思議な存在感に、心を奪われてしまう
妖精(小人)を演じてしまった、ジョン・ミルズ、
名演である
ロージーは アイルランドの閉塞感を、ランドルフは英国の疲弊を 表しているのだろうか?
(第一次世界大戦に 勝利しそうだが、アイルランド紛争が 勃発しそうな気配)
英国の 長期に渡る、アイルランドへの搾取は 凄まじく、プロテスタントのカトリックへの「弾圧」の意味もある
でも、アイルランド人は それを捨てず、貧窮を選び 憎悪を募らせるのである
比較的豊かな ロージーが、安穏と(周囲には そう見える)プロテスタントの 英国将校と「不倫の恋」をすることは「英雄の死」の原因を 邪推させ、彼等の怒りの 導火線に火を着ける
トム・ライアンは ただの凡人である
日和見主義者なのだろう
アリバイ作りには、成功したが
火の粉は娘に降りかかる
(演劇性も アイルランド人の特徴であるらしい… )
総てを理解した ロージーだが、マイケルの存在まで、理解したのだろうか?
(そして ランドルフは わかったのだろうか?)
エメラルド島とも呼ばれる 島の美しさをカメラが余すところなく映し出す
(ため息… )
豊かではないが、雄大な自然と 妖精と アイルランド人特有の激情と魂が、この国から芸術家を産み出す 不思議
神父(トレバー・ハワード)と 妖精(小人)が 一緒にいる不思議
モーリス・ジャールの音楽も 明るくもなく暗くもなく 時に転調(?)するみたいなのも、 この不思議さを 物語っているよう
名作だと 思う