殺人事件の加害者と対話することで和解を試みる被害者遺族の姿を通し、理解できないものへの接し方や、死刑制度などについて描き出す人間ドラマ。43歳のビジネスウーマン、晴美は、ひとり娘のみちよが結婚し、現在は夫と2人で平凡な暮らしを送っていた。そんなある日、みちよが、夫であり晴美にとっては娘婿の孝司に殺されるという事件が発生する。逮捕され、裁判で死刑を言い渡された孝司に対し、娘を殺された晴美も当初は死刑が当然と思っていた。しかし、ある時を境に晴美は考えを変え、孝司の死刑を止めようとするのだが……。監督は、これが長編2作目の佐藤慶紀で、今作が韓国の釜山映画祭や大阪アジアン映画祭など国内外の映画祭に出品された。
HER MOTHER 娘を殺した死刑囚との対話評論(10)
「弁護に真実など必要ない」と言い切る弁護士が、弁護を担当する殺人犯に翻弄されつつ、
ある境地にいたる「三度目の殺人」。
知能犯が合理主義的な弁護士を深い迷宮へと誘い込む。
司法システムの矛盾をヒューマニストの目線から描いた大傑作である。
しかし、私の心を掴まれたのは「HER MOTHER」。
「HER MOTHER」では、主人公の母が、殺害された娘への愛と、
ある理由から沸き起こるその犯人への共感で引き裂かれそうになっていく様を容赦なく描く。
彼女は他者を見つめ、娘に対する盲目的な愛と向き合おうとしている。
その苦痛にまみれた表情が私の心を揺さぶった。
上告棄却後の部分は良かったけれど、携帯を隠し続けたのは真実を知りたいよりも娘の立場に立った時に不都合な真実があると考えていたからじゃないのかと感じるし、一審二審の争点や判決とか判決がわからず主人公がどうしてそう考える様になったのか理解しにくい。
弟と旦那はちょっとやり過ぎかなと感じるし、背景がみえないから感情移入仕切れず白々しく感じてしまう部分もあるし、面白かっただけに非常に勿体なく感じた。
死刑囚と被害者の母との対話という映画紹介から社会派の固い内容かと思って観に行ったら、一人一人のキャラクターの立った人間ドラマと一つの謎が最後まで引っ張るミステリー的な面白さを兼ね備えた秀作だった。無駄な説明セリフやナレーションがなく役者さんの演技と演出で勝負しているのが潔い。
あえて苦言を呈するとHer Motherというヒロインに主眼を当てたタイトルよりMothersとかFamiliesの様に登場する人達それぞれのドラマである事をアピールするタイトルだったら観客の受け入れ方がもっとスムーズだったのではないかと思う。
新宿のケイズシネマも小さいながらも綺麗でシートの大きい快適な劇場だった。落ち着けるこの空間で各国の映画祭での受賞もあると聞くこのチャレンジングな作品を楽しんで欲しい。
それぞれの親が子供にされた事、子供のした事に、苦しみながら向き合おうとする姿が生々しく、そして痛々しかった。
娘の母親が子を亡くした悲しみを、傷の痛みとともに思い返すような仕草は本当に切なかったし、娘の父親が、死を受け入れ現実を生きようと決心するにもかかわらず、投げられた一言で崩れていってしまう様は、とても印象に残った。
私は、まだ1度目の鑑賞だが、見方を変えて2度、3度観れそうな映画である。