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沈黙のレジスタンス ユダヤ孤児を救った芸術家評論(20)
今回はパントマイマーのマルセル・マルソーのレジスタンス活動を描いたもの。親をナチスに殺されたユダヤ人孤児を助けたって実話から作られた物語。ナチスから人を助けるって話は他の映画でもあるから、違いを出すならナチスの酷さや怖さを描くのと、ナチスにバレるんじゃないかってスリルになると思う。そういう意味では独自性のある映画だった。列車の中のやりとりはなかなかの緊張感だった。
スリルもあったし、怖いシーンもあったし、悲しいシーンもあって、全体的な印象は悪くない。復讐でナチスを数人殺すよりも、生き残る・生き残させることがナチスの目的をつぶすことという、彼なりのレジスタンスはとても心に響いた。
ただ、難点はマルセル役のジェシー・アイゼンバーグのパントマイムがあまりうまくないこと。昔のパントマイムってこんなもの?
奴らにリベンジするのよ。
非力な自分たちに何ができる?
何人かは殺せるかもしれない。
殺してどうなる、どうせ使い捨ての末端だ。
怒りが治まらないのよ。
多分奴らは戦争が終わったら拘束される。子供たちを逃せば彼らは家族を作る。
死んだ仲間たちは?
彼らがリベンジを望むと思うか?僕らが生き延びることを願うと思わないか?
エマの怒りに任せたセリフに対して、マルセルは人間愛に満ちた迫力のある論理を展開する。こんな説得をされたら、よほどスクエアな人を除いて誰もが納得するだろう。素晴らしい脚本であり、このシーンを演じたジェシー・アイゼンバーグとクレマンス・ポエジーの演技は見事であった。
本作品はアメリカ映画ながら、凡百のハリウッドB級作品とは一線を画していて、様々な叡智がさり気なく鏤められている。その代表はナチスの傀儡政権だったヴィシー政権を皮肉る様子である。ナチスに協力してフランス中のユダヤ人を収容所送りにした政権だ。傀儡政権でも政治権力に違いはなく、警官は権力を傘に着て市民に対して横暴に振る舞う。エマが機転を利かせてやり過ごすシーンが面白い。偉そうな警官がアホなカップルに説教を垂れて立ち去る図式にしたのだ。
フランス人だからといって全員がレジスタンスという訳ではなく、国民の多くはヴィシー政権を支持し、ユダヤ人を排斥することまでしていた。レジスタンスはほんの一握りだったのである。寄らば大樹の陰という志向は世界に共通するようで、自分が生き延びることを最優先にしたという訳だ。
フランス全土が征服されたとあってはもはやこれまでと、飲み屋ではハイル・ヒトラーに全員が息を合わせる。そこにゲシュタポの高官が来れば、誰も逆らえない。仲間が半殺しにされても見ているだけだ。
このシーンと似たようなシーンは、実は現在の日本中に遍在していると思う。たとえば体育会の部活における監督やコーチや先輩による暴力である。または精神的ないじめである。体育会に限らない。企業でもプロジェクトチームでも、社長や上長に逆らえず、ひとりが標的にされて殴られたり暴言を延々と浴びせられても、誰も止めずに見ているだけだ。
日本国憲法第14条には、すべて国民は法の下に平等であると書かれてある。指揮系統には基本的に従わなければならないが、それが法に悖る行為の強要であれば、断固として拒否することができる。暴力や暴言は止めなければならない。しかしそれには勇気が必要だ。殴られた人は可哀相だけど口を出せば次にやられるのは自分になる。
実はそこがおかしい。暴力を止めるのになぜ勇気が必要なのか。世の中がそうであるからだ。そういう教育を受けて育ったからだ。先輩の暴力をみんなが止めるのが普通の世の中にしなければならない。人に暴力を振るうことに誰もが躊躇するようにしなければならない。そういう教育をしていかねばならない。そしてそのための教材は新たに作る必要はない。日本国憲法の中にすべて書かれている。意味不明の道徳教育を課目にした代わりに、日本国憲法を課目にすれば、少しは世の中がマシになる気がする。
フランス人の殆どがナチスに屈してユダヤ人排斥に協力する中で、自らもフランス人でありしかもユダヤ人であったマルセルが、大勢に迎合することなく勇気を出してユダヤ人の子供たちを逃したことが、本作品が示した一番の叡智である。権力に逆らえない現代人への皮肉なのかもしれない。我々がマルセルに、エマになれる日がいつかは来るのだろうか。
第2次大戦下、沢山のユダヤ人孤児達を保護し、逃がしたパントマイムの神様マルセル・マルソーの話。
パントマイムに明るい訳ではない自分でもこの名前には聞き覚えがあったけど、詳しいことは何も知らずに観賞。
1938年11月、ドイツ帝国との国境近くフランス北東部のストラスブールで駆け出しの俳優をしていたマルセルが、ユダヤ人孤児123人の保護を手伝ったことが切っ掛けで転じていくストーリー。
ポーランド系ユダヤ人で肉屋の父親との関係や、パントマイムを通じて子供達を和ませる部分はあるけれど、子供達を護る為に奮闘し、レジスタンスに身を置くことになるマルセルと兄アラン、好意を抱くエマとその妹ミラが選択した戦い方をみせていく物語が、哀しく熱く温かく、そしてナチスの恐ろしさと不快さが終始漂いスリリングで、とても面白かった。
本作はパントマイムの神様と呼ばれたフランスの芸術家で俳優のマルセル・マルソーが有名になる前に経験した第二次世界大戦の頃の話を描いている。
目を覆いたくなるようなナチスの残虐行為の描写に関しては他作品同様、強烈に胸をえぐられる。
前半は比較的に穏やかに物語が進むも、兄や想いを寄せるエマたちとレジスタンスに身を投じてからは物語は一転、サスペンスさながらのハラハラドキドキ緊迫したシーンが幾つも繰り広げられる。
ナチスがみせた悪夢のような状況下でさえも人々に求められていた芸術。芸術には魑魅魍魎な人間界とは無縁のような神々しさがある。かつて神への捧げ物と呼ばれたように。
劇中に出てくるクラウス・バルだって愛娘に芸術に触れさせたいと願っていたし、実際にあのヒトラーだって芸術をこよなく愛していた。芸術とはいつの世も善人も悪人もひれ伏せてしまうような壮大なパワーと美しさがある。
また本作からマルセル・マルソーという一人の芸術家としての誇りと気概さも知ることになる。
復讐をするのではなく、死んでいった同胞のために、そして同胞達の残した子ども達を守り、後世へ繋ぐことを決意し成し遂げたマルセルのその勇気に敬意を表したい。
ただ…肝心のパントマイムシーンがよくわからずだった…残念。